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『世界史の極意』佐藤優 読了!☆☆☆

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世界史というものは今の時代には基本的な教養の一つだと思う。 海外ビジネスを進めるに当たり、当然のことながら相手先の文化、文明、慣習等々に気を配りながら進める必要がある以上、その国の成り立ちを前提として考慮しておく必要があるからである。 また、それだけに限らずこれからのこの国の行く末を考えるときにも一国鎖国主義では無い以上、世界の理について知っておいてもしくは無い。

残念ながら高校においては日本史のほうが世界史よりも受験勉強が効率化できるとのことで、世界史を選択する学生が少なくなっているという。

基本的な高校世界史の知識すら教養の範囲から対象外となってきているという現状は非常に恐ろしくも感じるものである。

世界史の極意 (NHK出版新書 451)
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本書は『歴史は繰り返す』ということから、過去の歴史を通して現代の国際情勢をアナロジカルに読み解くためのレッスンである。 まず作者は現代に直接的に繋がる事象をアナロジカルに整理するために、イギリスの歴史家エリック・ホブズボームの時代区分を提示する。 1789年のフランス革命から1914年までの「長い19世紀」と1914年の第一次世界大戦勃発から1991年までのソ連崩壊までの「短い20世紀」。 長い19世紀は科学・産業の進歩を促進した啓蒙の時代、進歩の時代であり、その行き着く先は帝国列強同士の初めての総力戦である第一次世界大戦を引き起こす。 その後も戦争の時代は続き、短い20世紀も歴史的には帝国主義の潮流の中でソ連崩壊により決着!? しかし作者はまだ戦争の時代は終わっていないと断言する。 旧・帝国主義の時代は過ぎ去っても、2001年のアメリ同時多発テロ以降の現代の国際情勢はイラク戦争、シリア内戦、ウクライナ危機、イスラム国の脅威という戦争に直結する問題から、EU金融危機スコットランド独立問題、尖閣諸島を巡る日中問題とまだまだ国際問題はそこかしこに累積し、新・帝国主義的な潮流が生まれてきているという。

そんな中で、『歴史は繰り返す』ことを事前に察知し、過去の歴史から現代の教訓を汲み取り行動するための知識として、歴史をアナロジカルにとらえることが重要なのであるということだ。

本書は新書なので情報量にも限りがあるため、大きく以下の3つのテーマでアナロジカルな歴史の見方を解説している。

個人的には第三章の『宗教問題を読み解く極意』が面白い。 今一番のトピックとしてのイスラム国の位置づけということもそうだが、それに対峙して解説されているバチカンの世界戦略に強い興味を引かれた。 イスラム国がイスラム帝国という目的に向けて暴力を前提とするのに対して、カトリック総本山であるバチカンは『対話』という武器でおなじような世界戦略に基づいて行動をしている。 宗教という装置の理解を進めるためには、啓蒙の時代以来の合理的な精神だけでは解決できない。非合理であり神学的な『見えない世界』へのセンスにもとづいた解釈が必要である。

彼の国とのプロジェクト発足に当たり、なぜ日本企業がパートナー足り得たのか?という部分については、最近いろいろと補足記事が出始めている。 当然のことながら、日本国内での実績や技術力は前提のこととして、それ以外にジャパニーズビジネスマンならではの熱意と誠意、さらには日本流な仕事の進め方といったビジネス慣習に関する表向きな部分も重要なことであったと思う。 さらには極東の八百万の神々を祀りながらも仏の道やキリスト教といった宗教的な肝要さということも一つの選択肢であったのだろう。 しかし、ただの平和の使徒ではない彼の国の世界戦略に則ってのことであるとすれば、地政学的な位置づけも当然考慮しているかもしれない。 欧州の地続きの位置で、中世近代と何度も攻め込まれた歴史を持つ彼の国であれば、地続きで押し押せてくる心配の無い周囲が海に囲まれた文明国ということも一つの重要なファクターであろう。

また、彼の国の中国政策・ロシア政策を考えると欧州の反対側で宗教色の薄い文明国との友好というモノは大きな力となるに違いない。 そんなことを考え出すと、今回の彼の国とのプロジェクトもただの文化文明の継承だけではない別の位置づけも浮かび上がってくるのではないかと一人ムフフと考えてしまうのである。