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『石原完爾 マッカーサーが一番恐れた日本人』早瀬利之 読了!☆☆

石原莞爾 マッカーサーが一番恐れた日本人 (双葉新書)

痛快な本である。
本書は関東軍1万の兵力で、近代兵器を備えた張学良軍22万の大軍を打ち破り、満州国建国に導いた希代の軍略家とされる石原完爾を尋問するために開廷された極東国際軍事裁判『酒田臨時法廷』を舞台としたノンフィクションである。
従来の歴史モノとは少々異なるのは、満州事変〜支那事変〜太平洋戦争に至る歴史を振り返るモノでは無く、あくまで山形県の酒田で行われた『酒田臨時法廷』でのやりとりが述べられているからである。
そういう意味では歴史モノというよりも法廷モノといった読み方もできる。

ここ1、2年でこれまで全く興味を惹かれなかった昭和史モノをよく読むようになった。
特に満州モノはこれまでの知識の乏しさを埋めるかのように読むようになっている。
それは、ひとえによくわからないからである。
本書の主人公、『石原完爾』もとても興味深い人物ではあるが、これまでの歴史上の人物と比較しても、詰め込んだ知識の乏しさからかまだボクにとって明確なキャラクターが確立されていない。

例えば、前述した関東軍1万の兵力で22万の張学良軍を打ち破った希代の軍略家としての一面。
『五族共和』『王道楽土』を唱えるコスモポリタン的思想家としての一面。
『日米最終戦争論』といった長期的戦略を打ち立てる戦略家としての一面。
陸軍中央統帥部との確執により次第に追い込まれ、解任にいたるような頑固一徹なパーソナリティ。

このように様々な面を持ち合わせている石原完爾ではあるが、まだボクには謎な人物である。

本書では決して転向や卑屈にならない頑固一徹な石原完爾がそこかしこに垣間見られる。

リヤカーで酒田臨時法廷に出廷す。
東條首相に『あなたが総理を辞めることだ!』
トルーマンは第一級の戦犯だ!』
『オレは戦犯だ。なぜ逮捕しないのだ』
『ペリーを連れてこい!』
『信仰を知らぬバカ野郎』
満州事変はこの石原の責任、戦犯にしてくれ』
マッカーサーは敗戦国の精神を侮辱している』

等々、本書では酒田法廷での検事とのやりとりや外国人記者とのインタビューを通じてこのような、敗戦国の元中将でありながら、他の戦犯の惨めな答弁とは全く違う、独り気を吐く石原完爾の思い、思想、理念、気概、悔恨が『ひとりの人間』としての石原完爾を浮かび上がらせている。

不思議なことに、酒田法廷の検事や外国人記者はこのような暴言とも思える発言を受けながらも、ウィットとユーモアに富んだ石原完爾と会話をしているうちに、みな一様に先生の講義を受けているかのような気にさせられて、最後には感謝して去って行ったという。
民族を越えた万民に通じる思想を根幹としたものがあるのだとは思われるが、このエピソードがどこまで本当か定かでは無い。

ただ、コレがすべてでは無い。
このような戦時のリーダーがひとりでも居たということは、日本にとっての財産であるかもしれないが、著者である早瀬氏は石原完爾研究家でもあることから、少々一面的な見方にならざるを得ない部分もあると思われる。

そういう意味では、非常に痛快な本ではあるが、これは満州事変当時のあくまで石原完爾側・関東軍側からの見方でしか無いということは、ちゃんと心得ておくべきである。
そういう客観さが欠けているのではと思う部分があるので、評価は『☆☆』。