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“TEAM H末端構成員”が妄想と現実の狭間で戯れます。

『ナウ・ローディング』詠坂雄二 読了!☆☆

ナウ・ローディング

一大ブームの真っ最中の中に組み込まれ、日々熱狂と熱情の中で自らの役割の担って生きてきたものが、ブームの終了or日常・常態化により自らの足下を見失っていく。 変わらない日常と倦怠感に対して、過去のカーニバルとの違いにばかり比較してしまうと現在の自分の幸せは見えてこない。 歳を重ねた自分と社会の変化との折り合い、お祭り騒ぎだけが人生では無いコトへの悟り。

そんな過去への憧憬がまだ魚の小骨のように突き刺さる主人公?が自らがこれまで築いてきた人生を再認識し、ちょっとした日常のきっかけ、気付きを軸に自分の過去を再整理することで『今現在』の自分を再生の足がかりとする再生の始まりのの物語。

本書は長編かと思いきや、5つの連作のような小品で構成されている。

  • もう1ターンだけ
    母校である専門学校の特別講師として教壇に立つ主人公。ゲームの在り方の根底にもある『文章』について講義を進める中で、10年前のタイムレターの処分を任せられる。
    その中の一遍の文章『just one more time』。タイムレターに一文だけ書かれたその文章に込められた思いとともに、自らの『just one more time』の舞台を再確認する。
  • 悟りの書をめくっても
    ビデオゲームにおけるリアル・タイム・アタック。通称RTARTAを巡る環境は進化し、動画配信によりリアルタイムで不特定多数の閲覧者がプレイヤーの一挙手一投足をネットを介して注目する。そんな中、ベテランプレイヤーの不正が発覚。しかも敢えて誰にでも解るような不正の仕方に込められたその真意とは?一つの時代を切り開いた先駆者の苦悩とこれからの時代への架け橋のきっかけの物語。
  • 本作の登場人物はすべて
    同人エロゲームの楽しみの一つがイベントをクリアすると観ることの出来るエロ画像のコンプリート。しかし、どのルートどのイベントをクリアしても決して表示されない画像の存在を知ったとき、その表示されない画像を描いた作家の真意とは?妄想と現実の狭間で天才絵師が仕掛けた創造の物語。
  • すれちがう
    もはや小学校に上がる頃には誰しも手にする3DS3DSの通信機能であるすれちがい通信がもたらす、知らない間の友だち関係の漏洩。デジタルの世界になれきってしまった想像力は、デジタル抜きにした子供の衝動を想定できなくなるという現実。なんのシナリオもない子供ならではの悪意のない衝動的行動がもたらす友だち、仲間の在り方の物語。
  • ナウ・ローディング
    殺人鬼が自首した真相とは?その真意を明確に結論づける名探偵の存在。過去の名探偵との関係から自らの人生を縛り付けていた主人公は新たな人生を歩むべくこれまでのローディング時間の必然性を理解する。

どれもこれも、現在に踏みとどまった停滞の時から静かに過去を振り返り、過去の時間を受け入れて次なる人生に時間をかけつつ踏み込んでいこうとする再生のきっかけを見つける物語である。 各作品の主人公はそれぞれ年代も異なるが、どれもこれも『青春』という時代を乗り越え、現実の世界に自分の足場を気付く大人の階段を上っていくときのようなセンチメンタルな気持ちにさせられる青春群像劇ともいえる。

次のステップに向かうには必要な『ローディング』。 ローディングしないことには今のゲームは始まりませんから(笑)

ナウ・ローディング
ナウ・ローディング
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詠坂 雄二
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