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『関東軍とは何だったのか 満洲支配の実像』小林英夫 読了!☆☆

関東軍とは何だったのか 満洲支配の実像

先日の石原完爾モノがあまりに石原完爾側からの視点、主張だったので心の秤のバランスを取るためにより広い視点からのモノをと手にしたのが本書。

満州モノに興味が沸くのは、 なぜ?あの大陸の大地に?? 日満に限らず日満蒙漢鮮と五族共和とは本当に思想だったのか?ただのプロパガンダだったのか? 当時の地政学的な理屈や世界情勢と現代の視点からではもうとう善し悪しを判別できるモノでは無いかもしれないが、やはりあの時代大陸に夢を抱いた日本人たちが何千何万も実際におり、海を渡っていったという『熱情』にボクは少しでも触れてみたいのである。

そういう意味では『関東軍』という組織は主役であり、本書のタイトルの通り『関東軍とは何だったのか』を解明してくれるならばこれほどの良書はないといったところである。 しかし、結論から言うとボクの期待は大きく裏切られた。 つい先月出版されたばかりの本書。満州の希望の部分に光を当てた本が出版され始めている昨今、最近の流れの本なのか、それともこれまでのような闇の部分に迫る本なのか、2,700円というそれなりの価格に期待を寄せたのだが、本書では『関東軍とは何だったのか』という意味ではなんら分析も新たな解釈での解明もなされていない。 ただの関東軍通史である。

なので、本書は最後の終章政治集団と化した関東軍さえ読めば事足りる。これまで長々書かれてきたことをこの終章で関東軍の来し方行く末が簡潔に纏められているからである。 本書の内容はこの終章以上でも以下でも無い。

それと巻末の付録関東軍満州国 関連人物略伝は今後の満州モノの参考になるだろう。 なにせ、この昭和の大戦にかんする人物というのは歴史上の他の武将や幕末の志士と違ってなかなかキャラクターがつかめないのである。そういう意味でこの略伝はちょっとした参考になり得る。

本書ではボクが求める関東軍の為政者としての実情や陸軍中央部との確執と独断専行思考の醸成とか、満州国における高級官僚と民政の実績、満州国内における満蒙と日本人の確執等々、その中央に位置する関東軍がどういう采配を表と裏で振るっていたかという面はほとんど触れられていない。あくまで『軍』としての軍事行動を中心に通史として描かれているだけである。

しかし、軍としての行動という面では先日の『石原完爾 マッカーサーが一番恐れた日本人』では『関東軍1万で近代兵器を備えた張学良軍22万の大軍を打ち破り、満州国建国に導いた希代の軍略家』と石原完爾の功績を称えていたが、本書では満州事変勃発時、蒋介石は張学良に関東軍の挑発に乗らないよう自制することを命じ、張学良軍はほぼ静観していたということと述べられている。 ようは確かに張学良軍は近代兵器も備えていたかもしれないし、22万の大軍だったかもしれないが、22万の大軍が関東軍と実戦に及んだかというとそうでは無く、関東軍は張学良軍のたいした抵抗を受けること無く電撃的な満州支配を運も味方に付けた上で完了したという話なのである。

歴史ものはその軸足をどこに置くかでまるで表現が変わってしまう。 そういう意味では本来期待したことは本書からは得られなかったが、当初の心の秤のバランスを取るためにという面では参考になった部分も多少はあった。

関東軍とは何だったのか 満洲支配の実像
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