SAY SILLY THINGS!

“TEAM H末端構成員”が妄想と現実の狭間で戯れます。

かつてオムレツはかくありき

3 Brown Boiled Chicken Eggs

オムレツ
Wikipediaによると、

オムレツ(omeletteまたはomelet)とは、玉子を割って溶き、塩・胡椒などで味付けをし、バターや油をひいたフライパンで手早く焼いた代表的な卵料理。多くは木の葉型で中央が丸く盛り上がった形をしている。食材も作り方も非常に単純で、家庭でも簡単に、かつ短時間で作る事が出来る。このため、特に朝食のメニューとしてたいへん親しまれ、世界中どこの国でも普遍的に作られている。

とある。

ふむふむなるほど。簡単ではあるが結構奥が深く、満足いく出来映えのものはなかなか難しい。特にプレーンオムレツは。
なので、どちらかというとホテルのビュッフェとかであったりすると喜び勇んで選んでしまう食べ物の一つである。
以上、終了。

...............いやいや、ちっと待てっ!
今一度立ち止まってよくよく考えてみることにしましょう。

今となっては何となく、『オムレツ』というものはフワフワトロトロな普通でありながらちと小粋スパイスがのっかったあのオムレツを思い浮かべるかもしれない。
が、記憶のすり替えというか、いつの間にかオムレツという記号の変換が行われていやいないだろうか?

特に昭和な世代の人はよくよく記憶を思い起こして欲しい。
自分のお母ちゃんがあんなおしゃれな食べモンを作ってくれただろうか?
家でお母ちゃんが作ってくれたオムレツとは、挽肉とたまねぎのみじん切りを塩胡椒で炒めた具に、フライパンで溶き卵を薄く敷いて焼いた薄い玉子焼きにくるまったヤツではなかっただろうか?

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美味しいのに、玉子を箸で分けると中身がボロボロ落ちたり、玉子の合わせ目がくっついてなくて料理として崩壊するアレである。

当時ボクはその食べ辛さを差し引いてもそのオムレツが好物であった。
洟垂れ小僧の時はケチャップ派だったが、桃色少年の頃には醤油派。
これぞ家庭料理の定番っ!という献立の一つだったものである。

たしかに外食でこのオムレツを食べたという記憶はあまりないのだが、大学に入り、実家を出て一人暮らしをしていた下北沢の定食屋では中の具が納豆だったり、明太子だったりしたオムレツ定食をよく食べていた。
このころのオムレツはいわゆるフワトロ派のオムレツではなかったはずだ。

いったい、いつの頃からオムレツはフワトロという固定観念にすり替わったのだろう?
まるで、高級ブランド米といえばササニシキ!からいつのまにかコシヒカリ!!に変わっていたかのような転換である。

転換点の一つは伊丹十三監督作品である『タンポポ』の公開ではないだろうか?
1985年、プラザ合意の年というまさにバブル期に突き進む歴史的タイミングでオムレツの前に『オムライス』のコペルニクス的転換が起こっているのである。


作中、ホームレスが食堂に忍び込んで作るオムライスは、チキンライスに薄く焼いた玉子焼きを被せるという従来の昭和少年大好きオムライスではなく、チキンライスにフワトロのオムレツをのせるという離れ業をやってのけた。
さらに、そのフワトロオムレツを真ん中から割って左右に切り開いてフワトロな中身の玉子がチキンライスに覆い被せるという演出付きの新たな『オムライス』というものを世に問うたのである。

いまでも日本橋たいめいけんの名物になっているこのオムライスは当時かなりの衝撃であった。
いっきに、薄焼き玉子巻という行為がダサいものになったのである。

昭和4年創業のたいめいけんで「タンポポオムライス(伊丹十三風)」を食べてきました - GIGAZINE
日本橋たいめいけんのオムライス

おそらく、このたいめいけんオムライスのオムの部分、すなわち『オムレツ』の部分がかくあるべし!と再定義されたことにより、従来の昭和オムレツから現在に至るフワトロオムレツに転換が図られたモノと推測するのだ。


そんなくだらないことを思ったのは、今日の我が家の晩ご飯がオムレツだったからである。

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すっかり、午後のお昼寝が長すぎて、起きたら日も暮れまくっていたため、冷蔵庫のありモノでうちの相方さんにおかずを作ってもらうことになったのだ。
冷蔵庫の具材を聞いて、オムレツつくれる?と聞いたら、さすがうちの相方さんも昭和な女である。
ちゃんと昭和家庭料理の定番のオムレツが出来上がった(笑)

しかし、悲しいかな。
前出のWikipediaの『オムレツ』の稿には、この昭和オムレツを思い起こす記載がいっさいない......。
こうして、料理というモノも生存競争に敗れたモノは新しいモノに入れ替わり、忘れ去られていくことになるんだなぁ〜。
と昭和な男の寂しさもひとしおなのである......。