「あたらしい戦略の教科書」酒井穣 著

自由業でなく組織に属している以上、一人で考え、一人で実行し、一人で成果を得るということはまず無い。
必ず自分ではない他者とともに考え、行動し、成果や失敗を供にすることとなる。
当然、そこには上司であれ部下であれ「人を動かす」という行為が発生するのだ。

どうすれば、人は動くのだろうか?
どうすれば、人を同じ目標に向かわせることが出来るのだろうか?
どうすれば、人と勝利の美酒を分かち合うことが出来るのだろうか?

書店のビジネス本のコーナーに行けば、百花繚乱の如く様々な切り口で解決できそうな美辞麗句を並べた書籍がおいてある。
著者の立ち位置によって、主題となるテーマは異なるが、結局ボクが思うにこれらのビジネス本というものは自分を磨くモノか他者を動かすためのモノかの2つしかないのではないかと思う。

ボクはどちらのタイプのビジネス本も新しいのが出るとついつい手に取ってしまう質だが、読んで新たな刺激を受けるというものは2割以下である。
残り8割は他の書籍の違う言い回しでしかない。

そんな中にもひと際まっすぐに腑に落ちてしまう本に出会うことがある。
以前エントリーに書いた「はじめての課長の教科書」もそんな本の一冊だが、その第二弾?の「あたらしい戦略の教科書」もすばらしい!!!

あたらしい戦略の教科書

あたらしい戦略の教科書

酒井氏の文章というか、書き方というのは他の話題となっているビジネス本の著者とは明らかな違いがある。
いわゆるMBAホルダー的な理論やフレームワークをかざして説明するわけでもなく、社長経験者が自らの自慢話を展開するような独りよがりな書きっぷりでもない。
普通の現場のビジネスマンが、普段頭の中で考えているようなレベルの言い回しで、優しくも難しくも無くホント普通の言葉で文章を展開するところだ。
だから、読んでいてなるほどなるほど。フムフム。と非常に腑に落ちやすい。
だから、そんなに大文字&行間が空いているわけでも無いのにスイスイと読み終えてしまうのだ。
今回も正味平日2日間の空き時間で読了してしまった。

また、自分が普段おぼろげながらに考えてることを体系立てて整理してくれるおかげで、自分の考えにも自信が湧いてくる。
「戦略」をテーマにした書籍となるとどうしても理論を並べたもの、ケーススタディーを羅列したものが多い。
そういった書籍も必要なケースもありうるとは思うが、なにも解らない一介のビジネスマンが読む本としてはお勧めできない。
現在、会社の階層別研修でまさに「戦略」をテーマに講義を受けてはいるが、そこで配布された教科書がまさに理論の羅列でしかなく、結局その本を読んだだけでは「戦略」なんてもんはこれっぽっちも理解できないといったものである。

戦略とは目標に向かって人を動かし、自ら(自社)への成果を生み出すためのプロセスである。

理論で、人はついてこない。
実感の湧かない目標では、モチベーションなんぞ高まるわけがない。
情熱がなければ、人は動かない。

結局、「人を動かす」ためのコミュニケーションがなければ、そもそも戦略足り得ない。

これでいぃ〜のだッ!とあらためて腑に落ちたことだけでも十分名著である。


現在、ボクが属する組織では先日もちと触れたとおり老害による公害が蔓延している。
自分の思いつきだけで大勢の人間を巻き込むという完全なる大企業病に陥っているワケだが、この老人とその取り巻き、やらされ感で満ちあふれている事務局の連中全員にこの書籍をまず読んでもらいたい。
戦略というのはあなた方が進めようとしているやり方ではないのですよ?


とくに以下の部分はよくよく考えていただきたいモノである。

  • 「われわれは変わらなければならない」と考えていない人物が、戦略プロジェクトの中心メンバーになることは致命的である。
  • 優れた目標の5つの条件のうちのひとつは、「リーダーが設定している」。
  • 情熱は言葉では伝わりにくい。実際の行動や態度で表現すべきである。