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「電子書籍二年」はあるのか?


電子書籍元年」と賑々しかった昨年末、シャープは「GARAPAGOS」を発売し、SONYは「READER」を発売。大日本印刷とドコモはようやく「トゥ・ディファクト」を設立してドコモ向け配信を開始と昨年夏ごろから次々とニュースリリースした大手の国内電子書籍サービスが出揃ったわけだ。

本来はGoogleさんのGoogle Books問題の時に真剣に国内整備をすべきだったと個人的には思っているが、それはとりあえず右から左へとやり過ごしたせいでなにも変わること無く、昨年年初のiPad発売でなんかタブレットビジネス有りきのへんな方向に進んできたのが昨年の「電子書籍元年」の顛末だと思っている。

出版関連業界が黒船黒船と騒ぎ立て、国は三省デジ懇を開催したり、業界は様々な協議会を五月雨式に立ち上げたとき、一つ注目したのが電流協だった。
大日本印刷凸版印刷という印刷大手二社が手を結んだということで、これまで出版社の下でおとなしくビジネスをしてきた立場から、ついにイニシアチブを握ってこれまでの業界慣習の枠を超えた展開を模索する気になったのか?と期待をしたのだ。
が、これも関係者の話を聞く限りでは結局当初の勢いはなく、いまだ出版社の後塵を配する立場以上のものでは無くなってしまっているようだ。これからのことを考えるとこの印刷大手二社の足踏みは非常に残念なことである。

で、話は最初に戻る。
年末に出揃った大手国内電子書籍サービスだが、これはこれまで10数年間ちまちまと提供されてきた電子書籍サービスと違うものなのだろうか?
開き直ったネーミングのGARAPAGOSはシャープというザウルスビジネスのノウハウを有して、かつデバイスメーカーでもあるシャープのサービスである。なんだかんだと騒いだ割には結局国内メーカーでタブレット型デバイスを開発したのはいまのところシャープだけだ。他メーカーが様子見なのかやる気ないのかわからない中で、その心意気は評価はできる。
が、デバイス主導の感はありありで、その場合GARAPAGOS端末を売るためのキラーコンテンツを用意できなければビジネスとしての広がりは望めない。国内市場の懸念を払拭するためには海外へ!という戦略もあり、インドで電子教科書等の教育面での普及も視野に入れているようだ。これはSONYのREADERがすでに北米市場でも受け入れられていたりするので、デバイスメーカーとしてはグローバル戦略の中でのデバイス普及がないと競争には勝てないだろうなと。
そういうところで、後発ではありながらも一応唯一頑張っているメーカーとしては期待はしたい。
が、自分がGARAPAGOSを買うかどうかは別の問題である。

SONYのREADERに関してはすでに北米での実績もあることから、コンテンツ次第かと思いきや、国内発売されたREADERの仕様を見て愕然。
3G回線もなければ、Wifiすらない。コンテンツの配信はパソコン経由……。一体何を考えているんだろう?10年前に失敗して国内撤退したときの過ちと同じ轍を踏むつもりなんだろうか?
当時はコンテンツが揃わなかったが、いまはコンテンツが十分なのでということであれば大いなる過ちである。
北米でブレイクした電子書籍ビジネスとこれまで国内でほそぼそとしか展開できなかった電子書籍ビジネスは別のものである。
それを北米で再ブレイクしたはずのSONYが分かっていないはずはないのだが???

大日本印刷とドコモが手を結んだ「トゥ・ディファクト」。大日本印刷自身でも以前から電子書籍サイトを運営しており、同グループであるCHIには他にもbk1リアル書店ジュンク堂丸善といった大手書店も連なっていることから、この書籍の制作+流通面でのノウハウとドコモの通信回線の組み合わせがあれば、一気に新しい電子書籍サービスが広がるんじゃないか?
と期待してみたものの、年末までドコモで実施された電子書籍の実証実験サービスでのコンテンツ&アプリケーションのシャビーさに呆れ返り、先日ドコモ向けのトゥ・ディファクトのandroidアプリケーションをダウンロードしてみたところ、これは決定的に無いなと確信した。

いまだCHI内での電子書籍プラットフォームの統合が進んでいないため、現状トゥ・ディファクトのサービスは大日本印刷hontoである。
アプリを立ち上げるとhontoの会員登録が促される。すでにボクはiPad or iPod touchむけにhontoアプリをインストールしているため、もはやと思っていたら案の定、アプリを立ち上げるとhontoの会員ID登録が促される。すでにiPadアプリで登録しているため「他のデバイスが登録されています。デバイスの登録を解除してから再度登録してください」というように怒られてしまうのだ…(^^;)ハハハ。
このDRMはこれまでパソコンベースで配信されてきた電子書籍サービスと何ら変わっていないものだ。マルチデバイスをうたってはいても、ユーザが購入したコンテンツは唯一のデバイスでしか閲覧ができない。例えば家にいるときはパソコンで読みたいと思ったときにはタブレット端末でのIDを解除してから、再度PCでIDを会員サイトに登録しなければいけないということか?
これはAmazonKindleで提供しているマルチデバイス対応とは全く異なるものである。
このID登録手順を見て、いくら大手二社が組んだところでこれは無いなと確信した。


この三社のビジネスモデルの問題はすべて以下の3点が欠けていることにある。

1.電子書籍をコンテンツビジネスとして捉えておらず、メーカーor通信キャリアのユーザ囲い込みのためのものでしかない。
タブレットデバイス販売のため、携帯回線契約を拡大させるため。その呼び水としての電子書籍
前者で言えば魅力的な端末かどうか?
が、iPad以上に魅力的な端末かどうかと言われると、食指は動かない。
後者で言うと魅力的なコンテンツが揃っているか?
というとそんなことはない。

サービス開始時2万点!ということがよく喧伝されているが、ボクでさえ自分の蔵書として引越し時に売った分と今ある蔵書を合わせると5千冊くらいはいくのだ。それくらい個人で所蔵しているのなら2万点くらいの品揃えはたいしたことはない。
しかも、その内容はどうでもいいようなノウハウ本や駄本が殆どで、どうしても読みたいと思わせるものはまだ出版社からのお許しが出ていないのが現状だ。
ケータイ電話ではコミックや写真集が電子書籍ビジネスを引っ張ってきた!と誇らしげに言われることがある。
業界各社が大いに誤解しているのは、これまでのケータイ電子書籍ビジネスはすでに持っているケータイ電話でマンガも読めるから利用していたものである。
マンガを読むためにユーザがあらたにデバイスを購入する割合はどれほどのものだろうか?
しかも、用意されたコンテンツがシャビーなものしか揃えられないということであれば、早晩ビジネスはシュリンクしていくと言わざるをえない。

2.出版社の意識が変わらない
昨年、騒ぎに騒いだ?出版社。「電子書籍」というコンテンツを前に自分たちがどうアプローチすべきか、これまでの「書籍」というパッケージから中身だけの無形の「コンテンツ」として流通していくこの情報に対して、自分たちはどうあるべきか?
おそらく、真剣に考えて出版社自らが発言したという記憶はボクにはない。<これでも有料無料含めて日々個人的に業界情報は人よりも漁っているつもりだ。
三省デジ懇にて「中間フォーマット」などというこれまた不思議なフォーマットの議論に落ち着いてしまったおかげで、出版社としてはおそらく「フォーマットの話はボクらの範疇じゃない。印刷屋さん考えておいて!」な程度しか理解していないのが真相ではないだろうか?
この意味不明な「中間フォーマット」は無駄なプロセスとしかボクには思えないのだが、出版社のために定義付けられたようなものだと理解している。
その本来はどうでもいい中間フォーマットを出版社が自分たちの武器として扱わないのであれば、そんなフォーマットはいらないのだ。

つまり、出版社は騒ぎに騒いだもののなんら意識が変わっていない。

これは11月のフォーラムを聴きに行ったときに耳にした、講談社副社長の発言でもあきらかだ。
2010年11月15日のエントリーでも触れたことだが、作家の福井晴敏講談社の野間副社長との対談の中で、

福井さんが「いつの時代でも新しい技術が出てきたときに真剣に対応を考えなければならないのはその技術で職を奪われてしまう人たち」といった事に対して、
野間さんは「今の状況でいうと印刷会社さんに頑張ってもらわないとね。」とか「ボクらは直接読者に本を売っているわけではないんで、マーケティング機能が無い」といった発言を耳にした。

これが最大手出版社の幹部の現状認識なんだと。
技術の進歩に対して、印刷会社は活版印刷時代の活版職人さんの技術からDTPの技術にシフトして、時代の要請に対応してきた。これからもし電子書籍が流通していくとしても、DTPでの組版データの扱いから、各出版社が望むフォーマットへの変換技術といったものを蓄積して対応していくだろう。
しかし、出版社自身も時代の要請に答えなければならないはずなのだ。

自分たちのコアコンピタンスは「編集力」だと彼らはいうだろう。
しかし、これまで水平分業でリスクを分散しつつ「書籍」というパッケージを出版するまでに培ってきた編集力と、これからの電子書籍の編集力は違ってくるはずである。
作家+編集者のタッグで作品を創り上げて来られた世界から、今後は作家Onlyもあれば、作家+Web制作会社という組み合わせもありうる。
新たなコンテンツという面では作家+IT業者という形も無くはない。

出版社はこれまで通りの仕事のやり方だけでは、ますます自分たちのビジネス領域を削られていくだけになる。それに気付かないのだろうか?
それとも、気付いていないふりをしてゆでガエルになっているだけなのだろうか?

今、騒がれている書籍のデータ化による電子書籍はいずれ時とともに電子化するだけのビジネスだ。これからのネイティブな電子書籍はどうあるべきか、出版社は真剣に考えていくべきと考える。
そのコンテンツの有り様が唯一無二のキラーコンテンツとなれば、国内の電子書籍マーケットも本格的に開けると思うのだが…。

3.ユーザ視点はどこにも存在しない。
この大手国内電子書籍サービスがダメダメで、じゃぁiPadiPhoneを中心にしたAppleの戦略が良いかというとそういうわけでもない。
なにせ、肝心のiBook Storeは国内向けサービスが開始できない状況だし、今の電子書籍APPが中心となってしまっている状況は空白を埋めるための一時的なものでしかない、そうであってほしいと思う。
所詮、いまのAPP形式で話題になっている電子書籍は出版社の販促目的がほとんどだ。真剣にAPP形式で売りだそうというわけではない。おかげで、どんどんiPadの画面は1冊1APPの電子書籍APPで埋め尽くされ、煩雑な事この上ない。
電子書籍サイトAPPも複数で揃っているが、それぞれのサイトで電子書籍を購入するため、そのうちどのAPPでどの書籍・雑誌を購入したのかわからなくなってくる。
こんなの全然ユーザ視点じゃない、どころかそのうちみんな嫌気がさしてくる。というか、すでにボクは嫌気がさした…(^^;)ハハハ。

今、数ある電子書籍配信サービスの中で、少なくともユーザの使い勝手を意識していると思えるのはAmazonKindleだけだ。真の意味でのマルチデバイス対応。それにワイヤレスで常にネットワークに接続可能なデバイス。最大手オンライン書店の規模を活かしてその電子書籍の品揃えは他を圧倒する。また、ソーシャルリーディングといった読書をとりまく新たな楽しみの提案にまでサービスを拡大している。あくまで、ユーザの利便性や楽しみといった立場でサービスが提供されている。
ビジネスである以上、利益の追求は当然のことであり、1で述べたようにユーザの囲い込みを否定するものではない。囲い込みがしたいのならば、ユーザが離れていかないように積極的にユーザに向き合い、ユーザの為の機能・サービスを提供することが本来であるはずなのだ。

そういう意味では、哀しいかな現在の国内電子書籍サービスには提供側の理屈のみでユーザ視点といったものが全くない。
とこれは断言する。全くないっ!!!


こんな体たらくで迎えた「電子書籍二年」はたしてくるのだろうか?

ボクはすでに電子書籍二年は無いと思っている。「電子書籍元年」は2010年のバズワードとして記憶されるだろう。
電子書籍を夢見たボクのような変わり者は、周りの状況に一喜一憂するよりも、すぐにドキュメントスキャナーを購入して自炊生活に向かうべきである。
このほうが、欲しい書籍の電子書籍(仮)をデバイスで持ち歩けることができるし、ePubだろうがXMDFだろうがデバイス限定になるかもしれないフォーマットよりも、どんなデバイスでも読めるPDFのほうが、これから先の技術動向が読めない分まだ安心出来る。
自炊生活のほうがよほど精神安定上好ましいものだ、と自分自身ドキュメントスキャナーを手にして自炊生活に入って実感した。


はなはだ寂しいことではあるが、今年「電子書籍二年」は来ないってか、元年で昨年12月31日をもって終了です。
が、おそらく5年後くらいにまた世の中はこんどこそ「電子書籍元年」!と騒ぎ立てることになるはずだ。
それまでは自炊を続けて5千冊程度には、自分の電子書籍(仮)アーカイブを充実させておきたいものだ。