終わらない物語......。


先日の26日、作家の栗本薫が亡くなられた。ボクがこの訃報を目にしたのは昨日の昼過ぎに見たネットニュースだった。
ただただショックである。
ショックの上塗りをするように、昨日はこの訃報に関するブログのエントリーを読んで回った。
読めば読むほど虚しさが増すばかり。
傷口に塩を塗るような行為ではあるが、読み続けていくうちに「でもね?」とどんでん返しの情報が出てくるのではないかとあるはずのない情報を追い求めていた。


一日経ち多少は事実を受け止めるくらいの余裕は出て来たので、ボクもこの不世出のストーリーテラーについてというか、彼女が生み出したグインサーガの1ファンとして書き留めておこうと思う。

栗本薫氏は享年56歳だったらしい。健康であればまだまだ後10年は書き続けられていただろう。
この人の小説に最初に触れたのは中二の頃にコナンを読んだことからヒロイックファンタジーモノに興味が湧き、当時国内物のヒロイックファンタジーであるグインサーガを読みはじめたのが切っ掛けだった。
以来、グインをはじめ「ぼくらの時代」の薫くんシリーズ、伊集院大介シリーズといったミステリーものや魔界水滸伝といったあたりを大学生あたりまで読み漁った。
社会人になってからも読み続けたのはグインサーガだけである。


数年前からグインサーガの後書きは闘病記&状況報告の様になっていたので病状は把握していたが、なぜかこの人は病魔に支配されるような魂ではない、病魔を抱えながら平然と大往生までくたばりはしないだろうと勝手に思い込んでいる自分がいた。
なぜなら、グインサーガはまだまだ終わりが見えてこないから。
100巻まで続くと壮大な構想を立ち上げ、以来二十六年かけて100巻まで漕ぎ着けたものの、その間に拡げすぎた大風呂敷が収拾付かなくなりあっさりと100巻完結を取り消して、それからの右往左往ぶりは目も当てられない駄作・駄文のマスターベーションを思うがままに続ける厚顔ぶり、こんな状況のグインサーガを途中で放り出して逝ってしまうワケがないと、そんな無責任なことは創造主たる作家としてあり得ないことだと思っていたのだ。
ただの1ファンの願望でしかないワケだが。
でも、100巻カウントダウンあたりから現在までの冗長としか思えないエピソード、自己満足に浸っているだけの舞台調の台詞回しに毎回辟易しながらも、辛抱強くファンで居続けたのも単にグインの最終話を読みたい!これだけの一心であったのに...。


彼女には過去にすでに一度裏切られてもいる。魔界水滸伝である。あれもクトゥルー神話体系を参考に日本古来の魔族を絡めた壮大な物語をこれまた大風呂敷を拡げすぎて、最後はワケワカな状態で無理矢理終了させられ、読者としては今までの前振りは一体なんだったの???とクエスチョンマークでシナプスが溢れ返るばかりの身勝手さで終了させられた。
あれだけのせておいてなんて勝手な作者だ!と当時も憤ったが...(^^;)ハハハ。


そんなこともあり、せめてグインだけは......綺麗に終結を見せて欲しかった。
来月にグインの新刊を出す予定だったらしいので、その巻かもしくはこの1、2ヶ月体調が良かったのであればあと1巻分は遺稿が残っているかもしれない。*1
しかし、あの物語の進み具合からして大団円なんてほど遠く、今進行しているエピソードも切れのいいところでエンディングを迎えるということもないだろう。
栗本薫のグインの最終巻ということだけに意味のある、おそらくまた駄文に満ちた駄作がボクの前に提示されるだけのことだと思う。
でも、ボクは間違いなくそんなグインでも購入して夢中になって読んでしまうことだろう。


これだけの壮大な物語だけに、最終話に至る創作ノートでも残っていれば他の誰かが引き継いで継続という話もその内出てくるかもしれない。
でも、それは栗本薫グインサーガではない。栗本薫の視線を離れた独立したグインサーガとなる。ある意味作品としてはその形の方が幸せかもしれない。
が、どれだけ批判しようとグインサーガ栗本薫という偉大?不世出のストーリーテラーが生み出し、いつしか自ら生み出した中原という世界で動き回るキャラクターの一挙手一投足、会話を観察者として自動手記しているだけの出版物であり、その世界はどこかにある世界のリアルなのだ。
そんなどこかの世界を覗ける観察者が居なくなってしまった以上、もうボクらはその世界のリアルを体験することは不可能だ。
栗本薫グインサーガはそれ故に代わりは効かないのである。



5月26日午後7時、一人の身勝手な作家が逝ってしまった。
「終わりのない物語」がこれで「終わらない物語」になってしまった。
もう最終巻であるはずの「豹頭王の花嫁」を書店で手に取るという日は永遠に失われたのだ。


ご冥福をお祈りします。安らかにお休みください。

*1:今日の情報だと130巻まではなんとか出版されそうな雰囲気。