プリンの話

  
もう、この虹色の街で暮らして10年以上経ってしまった。
この街がオープンしたのは1995年の秋。計画されていた都市博も中止となり、この街の開発も計画見直し。
でも、複合ビルやマンションは竣工していたため、この早くも寂れることが決定していたような街はオープンされてしまったのでありました。


今となっては平日休日を問わず常に混んでいるゆりかもめも、この年の11月に開業した際にはほとんど乗る人もなくお昼のローカル線状態。
ボクを始め第一次移民受け入れが開始されたのが1996年の4月。
その後、泣かず飛ばずで予想通り早くもゴーストタウンと化しつつあったところ、なぜか翌年の春には局地的にブレイク!?
以降のこの街は多くのマスコミを初めいろんなメディアで扱われている通りである......。




そんな、まだ観光客より移民の数のほうが多かったこの街の創世記、あれは1997年の冬だっただろうか?
朝目覚めると、海浜公園の入り口に巨大な青いサンタクロースが鎮座ましまして在らせられた。
あれは、一体なんだったんだろう。
マンションの通りに面している商店街の計らいなのか?都の客寄せの計らいなのか?
その年以降、二度とこの青いサンタは顔を見せることもなく、海浜公園の入り口は観光客の増加に伴って整備されてしまい、この時の佇まいはもう見られない。


そんな、青いサンタクロースの一場面を切り取った小作品です。






僕の彼女は週末になるとたった1個だけプリンを作る。
3年前僕はふと、「プリンが食べたい」と言った。


彼女はプリンが食べれない。
食べると肌がかさかさになってかゆくなってしまうからだ。
「そんなの作れないもん!」と言ったくせに翌週末には僕の家にわざわざプリンを届けにきた。


「味見ができないからおいしいかどうかわからない」と言っていたが
結構おいしかったので、
「おいしいよ、上手にできてるよ」
と言ったら、翌週も、翌々週も、その次の週もたった1個のプリンを作って持ってきた。
味は毎回微妙に違っていたが、まずいと感じたことは一度もなかった。




その後一緒に暮らし始めてわかったのだが、彼女のプリンは毎週金曜の夜11時に作り始める。
10時からのドラマを見終わって、お茶を一杯飲んでから作るのだ。


プリンを作りながら彼女はいろいろなことを話す。
スーパーで出会ったおばあさんの話。
本屋さんで立ち読みした話。
友達の飼っている猫の話。

たまに、最近はやっている歌のさびの部分だけ何度もリピートして歌ったりする。
僕に話しかけているというわけでもないのだ。
「え?」っと聞き返すと、
「なんでもない」と答える。


要するにぼんやりといろいろなことを考えているらしい。

彼女は今夜もプリンを作り始めた。
「家の下に大きな青いサンタがいたね」
とちょっと嬉しそうにつぶやいた。
彼女は今夜はサンタのことを考えているらしい。



彼女のプリンの味は3年たった今でも一定しない。
なぜだろうと不思議に思ってずっと観察してきた。
さっき気づいたのだが、彼女は魔法の調味料を使っていたのだ。
毎週違った「ぼんやり」で味付けをしているのだ。


どうりでフワフワとしてつかみ所のない味だとぼくはおかしくなって一人で笑い出した。


彼女がキッチンから顔を出し、
「何かおもしろいことあったの?」とたずねる。
僕が笑い続けているのでまたキッチンに戻って妙な鼻歌を歌いはじめた。

明日の朝食べる「ぼんやり」の味が楽しみだなぁと
僕はぼんやり考えていた。